コンビニ、わが闘争

会社での昼食は専らコンビニで済ますことが多い。
朝、早めに起きて弁当を作るというマメさだとか、安く済むとかいう経済観念よりも、もっと寝ていたいという気持ちが勝ってしまう。怠惰な人間なのである。
それでもおにぎりを二つくらい握っていけばコンビニで買うものはせいぜいスープ春雨などに止めることが出来る。申し訳程度の節約である。
しかし、主食と汁物だけではどこか物足りない。自分は夏バテする性質で、夏はおにぎり二つで済ませていたこともあったが、冬は何故か食欲が増してしまう。
なにかおかずになるものーーと目につくのが、レジカウンターの真ん中に鎮座するチキンや唐揚げである。
気にしたことはないが、こういったチキンや唐揚げは恐らく高カロリーの上、添加物がかなり入っていると思われる。しかしあのチキンや唐揚げの身体に悪そうな味が堪らない。
おにぎりとスープという味気ないラインナップに、少しばかり唐揚げという華を添える。それにお腹も膨れる。
そういうわけで、昼休憩にコンビニへ昼食を買いに行くと高確率でチキンや唐揚げを買うのだが、やや困ったことがある。
「チキン下さい」と言うタイミングである。
大抵の人は分かるだろうが、コンビニのチキンや唐揚げを買うのは会計の時だ。
ここでいかに、店員さんの流れるような言葉を遮らずに注文をするかーー。
ここで自分の何か色々なスキルが試されているような気がするのだ。
お昼どきのコンビニはまさに戦場である。
同じように昼食を買いに来た近隣ビルに勤める会社員、学生たち(近くの学校の昼休憩が12時半頃であり、これに自分の休憩時間が被ると店内で学生たちの波に揉まれるとこになる)、ふらっと買い物に来た人々ーーとにかく、お昼どきのコンビニは人で溢れかえり、それを捌く店員さんは必然的に流れ作業的なレジ対応となる。ここで断っておきたいのは、彼らのレジ対応を批判する意図はないということだ。あの流れるような対応は最早職人の域に達しているし、鍛え抜かれた店員さんにしか出来ない、ヒヨッコはここで死ぬとも思わせる勢いがある。
普段の店員さんと自分の流れはこうだ。
店員さん「イァッシャッセー」
店員さん「アタタメマショウカー?(この隙にカウンターに出した商品がスキャンされていく)」
わたし「イヤッ、イイッス」
店員さん「オハシトフォークドチラオツケイタシマショー?」
わたし「アッ…オハシデ…」
店員さん「ポイントカードオモチデスカー?」
わたし「イヤッ、イイデース…」
店員さん「258エンデース」
〜省略〜
店員さん「42エンノオカエシデース アィトーゴザイッシター」
さて、どのタイミングで「チキン下さい」と言うか。
大抵、ポイントカードお持ちですかの問いかけの後に滑り込ませるように言うことが多い。「あっ、あとチキン下さい」と。さも今思いつきましたという風で。
実際は店内を物色している最中にチキンを買うことは心に決めている。
しかしカウンターに商品を出した途端に「チキン下さい」とマウントを取るのもどうかと思うし、会計が終わりこちらに金額を提示した後で追加で頼むのもどこか心苦しい。
だから店員さんが金額を提示する前になんとか注文をしようとするのだが、タイミングが難しい。見誤ってしまうと金額を告げる店員さんの声と被ってしまい、微妙な空気が流れる。
つまりレジカウンターに商品を置いた時から、戦いが始まっている。
いかにこの会計をスマートに終わらせるか。
店内さんの先攻、繰り出される攻撃(質問)に防戦一方の自分。しかし、一撃を決めなければ、チキンを買うというミッションは達成されない。
いくらスマートに終わらせたとしても、チキンを買えなければ意味がない。試合に勝って勝負に負けた状態である。
時折、一撃を決められず、スープのみを買って帰ることもある。攻撃を防ぐのにいっぱいいっぱいで、闘志が失われ、勝負を放棄してしまった時だ。
最終的に余計なカロリーを取らなくて済むので結果オーライという気もするが。
これからコンビニに行く限り、この戦いが続くのだ。いかにスマートにチキン下さい、と注文するのか。店員さんと、それと自分の少しばかりのかっこつけたさとの戦いである